Englicというのは、言語学者である鈴木孝夫氏が提案したEnglish-likeな国際語です。ただし、提案と言っても、詳細まで細かく提起されているわけではなく、英語ではない英語のような国際語が必要であるという主張の下で、大まかな概念として示されたものです。概要については、鈴木氏の著書である「英語はいらない!?」に記されています。

言語の問題というのは、自然科学においても重要であり、筆者自身も一人の物理学研究者として日々、悩まされている問題です。

ここでの「問題」というのは、純粋に語学の問題とは少し異なるものであり、自然を記述する言語というのはどうあるべきであるか、そして、論理としての言語や人々の間の伝達手段としての言語との間のバランスをどのように取ればいいのかという問題です。

論理を表すだけであれば、数学だけで事足りることになり、適切な記号さえあれば、自然言語は不要になります。しかしながら、それでは人間にとって分かりづらく、また、そもそも論理のみでは自然を記述することはできません。数学と異なり、自然科学は論理だけではなく「物」や「人」を取り扱っているからです。

一方で、伝達手段としての自然言語は、論理的な記述や正確な伝達において、様々な問題を抱えています。日常生活においては論理性や正確性が必要になることはほとんどないため、それでよいわけですが、自然科学の研究においては、そういうわけにはいきません。純粋な自然言語は自然科学には向いていないのです。

ということで、我々は、数学でもなく、自然言語でもない自然科学用の言語を必要としています。ただし、それは数学からかけ離れたものであってはいけませんし、自然言語からかけ離れたものであってもいけません。バランスが必要になります。

現在、自然科学の世界では、自然言語として、英語が採用されていることが多くなっています。従って、自然科学用の言語は「英語ではない英語のような国際語」を考えるのが現実的な方向性になります。それが「Scientific Englic」です。

ここでの主題は「自然言語ではない自然言語のような言語」であり、英語にはありません。近い未来には高精度の機械翻訳が標準技術になるでしょうから、自然言語の種類は関係なく、いかに正確に論理的に自然を記述し、人々に正確に伝えられるかだけが問題になります。

情報の論理性や正確性が確保できるのであれば、機械翻訳においてもロスは発生しないため、「Scientific Englic」さえ確立されれば、その他の言語の科学言語化も機械的に実行することができます。もし「Scientific Englic」が国際語となりうるとすれば、それは英語のためではなく、機械翻訳技術との親和性のためです。